rubyの音楽日記

作曲に関することを自由に書きます。

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カプースチンのピアノが途轍もなくかっこいい

みなさん、カプースチンという作曲家・ピアニストをご存じでしょうか?説明するよりも曲を聴いてもらったほうがいいと思うのでこちらをどうぞ。

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Wikipediaによるとカプースチンウクライナ出身のピアニストで、モスクワ音楽院を卒業しています。

ごつごつとした岩がぶつかり合うような音、うねる荒波のようなピアノの旋律、ジャズとクラシックの融合した軽快で難解な独特のリズム。非常に複雑であり、唯一無二の音楽です。本人の演奏がこれまた素晴らしいです。たくさんのピアニストが彼を尊敬し、彼の曲を演奏していますが、カプースチン本人の演奏と比べるとどうしても劣ってしまいます。彼の自作自演を聴くことができる時代に生きているということは幸せですね。

どのような分野でも同じだと思いますが、常に新しいものを開拓していくことが文化の本質・性質でしょう。以前の形を変化させ、進化させ、斬新なものにするのは素晴らしいことですが、一方で複雑さが増していくのは避けられないことなのかもしれません。しかし、その傾向が一定のラインを超えたとき、文化を創造する側と文化を受け取る側の間に隔たりが生まれます。理解できないもの、難解なものを楽しめないというのは仕方のないことです。現代音楽や現代アートの分野ではその傾向が顕著だと感じます。

カプースチンの偉大さは難しいこと、新しいことをしているにも関わらず、その音楽が一般的に受け入れられているという点にあると思います。超絶技巧の必要な曲はその楽器を演奏している人にとっては面白いものです。技術の追求はそれ自体が楽しいものです。しかし、技術的難易度や曲の複雑さと曲の親しみやすさは比例しません。ある程度までは比例するかもしれませんが、難解さが一定量を超えたとき親しみやすさは唐突になくなってしまいます。

カプースチンの曲はどうして親しみやすいのでしょうか。カプースチンに限らず、曲の親しみやすさと大きく関係しているのは間違いなくメロディーです。彼の曲は複雑でありながら、メロディーは把握しやすく、記憶に残りやすいのです。曲全体として、ある程度の複雑さがあってもメロディーが単純もしくはそれほど複雑でなければ、聴く人は苦労せず受け入れることができます。

もう一つの点は構成にあると思っています。カプースチンは曲の展開がうまいです。モチーフの変奏が卓越しています。これは個人的な意見になりますが、ジャズでは元のフレーズの原型をとどめていないような演奏が珍しくないと感じます。アドリブを楽しむ音楽だと考えればそれは面白いかもしれませんが、構築美というか統一性を考えたときにジャズのバラバラ感を私はあまり好みません。カプースチンの曲はジャズのリズムやコードを利用していながらも、構成や構造がクラシックを基盤として、モチーフが元の形を逸脱しないように慎重に作られているように思えます。彼のフレーズはジャズのアドリブのように自由な場面もありますが、それでもモチーフから離れすぎない形を保っています。

作曲家にとって新しいことをしたいという願望は避けがたいものですが、同時に人々に自分の曲を聴いてもらいたい、好いてもらいたいという気持ちも抑えがたいものです。場合によっては相反するこれらの要素を適切に融合できる人こそが、人々に注目されプロとして活躍できるのだろうと思います。自分もそういう作曲家になりたいものです。

カプースチンのおすすめかつ有名な曲集として8つの演奏会用エチュードがあります。上記の動画の曲である「Impromptu, op.66, no.2」は残念ながらこのCDには含まれていません。この作品は演奏会用の短めで親しみやすい8つの曲で構成されています。それほど演奏時間が長くないのですが、曲の展開やメロディー、コード進行、そしてリズムなどが様々な形で変化していくため、密度の高い曲を楽しむことができます。